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仙台高等裁判所秋田支部 昭和47年(ラ)15号 決定 1972年9月06日

抗告人 マルハ産業株式会社

相手方 葛西清造

主文

原決定を取消す。

本件訴訟を仙台地方裁判所に移送する。

理由

本件抗告の趣旨は主文同旨の裁判を求めるにあり、その理由の要旨は

一、相手方を原告とし抗告人を被告とする原裁判所昭和四六年(ワ)第一九三号第三者異議事件について、抗告人において訴訟を仙台地方裁判所に移送すべき旨の申立をしたところ、原裁判所はこれを却下する決定をした。

二、ところで右第三者異議訴訟の提起に至る経緯は次のとおりである。

即ち、抗告人においては申立外葛西寛助に対する金銭債権の執行を保全するため、同人を相手どり仙台地方裁判所に申請して昭和四三年三月六日付で、弘前市内所在の別紙目録記載不動産について仮差押命令を取得し、該命令は同年同月一一日右不動産の登記簿に記入された。これに対して相手方は右不動産が自己の所有に属すると主張し、抗告人を相手どつて原裁判所に本件第三者異議の訴を提起したものである。

三、しかしながら、民事訴訟法第五四九条第三項、第五六三条、第七五一条第二項によつて、不動産仮差押命令の執行に対する第三者異議の訴は仮差押命令を発した裁判所の専属管轄に属するものであるから、本件訴訟は仮差押命令を発した裁判所である仙台地方裁判所の専属管轄に属する。

というにある。

先ず本件抗告の適否について検討する。

本件は管轄違を理由とする移送の申立を却下した原決定に対し、民事訴訟法第三三条により即時抗告を申し立てたものであることは、抗告人の主張自体に徴し明らかであるところ、右のような当事者の管轄違を理由とする移送の申立を却下した決定に対し即時抗告を申立てうるか否かについては争いがあり、管轄違を理由とする移送の申立は、単に職権の発動を促す申立であつて、申立権に基づくものでないことを理由として、右は同法第三三条の「移送ノ申立ヲ却下シタル裁判」に該当しないとする見解も有力に主張されている。

しかしながら、右法条は、即時抗告に服する裁判を定めるにあたり、単に「移送ノ裁判及移送ノ申立ヲ却下シタル裁判」とのみ規定し、管轄違を理由とする移送の申立を却下した本件の場合のように職権の発動を促すにすぎない申立を却下した裁判を除外する趣旨を明らかにしていないのみならず、かように申立権のない場合であつても、裁判所がその申立に対しこれを排斥する裁判をした場合には、これに誤りがないという保障はないのであるから、これに対して不服申立の途を開き、右裁判が誤つていた場合これを是正すべき必要性があるといわなければならない。従つて、本件のような管轄違を理由とする移送の申立を却下した裁判は、右法条にいわゆる「移送ノ申立ヲ却下シタル裁判」に該当し、不服のある当事者は、右裁判に対して即時抗告を提起しうるものと解すべく、よつて、本件抗告は適法であるということができる。

そこで本件抗告の理由の有無について検討するに、まず記録によれば抗告人主張第一、二項の事実を認めることができる。

ところで不動産仮差押執行に対する第三者異議訴訟の管轄裁判所について考えるに、民事訴訟法第五四九条第三項は第三者異議訴訟が執行裁判所の管轄に属することを定め、同法(以下同じ)第五四三条第二項は、同法において別段に裁判所を指定しない各箇の場合においては執行手続をなすべき地又はこれをなした地を管轄する地方裁判所を以て執行裁判所とする旨を定め、第七五一条第二項は同条第一項を受けて、不動産に対する仮差押の執行については仮差押命令を発した裁判所を管轄執行裁判所とする旨を定め、第五六三条は同法第六編に定めた裁判籍は専属とする旨を定めている。これらの条文の定めるところに従えば、地方裁判所の発した不動産仮差押命令の執行に対する第三者異議訴訟は、第五四三条第二項にいう別段の指定をした規定としての第七五一条第二項によつて執行裁判所とされる、当該発令地方裁判所の専属管轄に属するものというべきである。

もとより第七五一条第二項の追加立法された趣旨が、第七三九条所定の本案の管轄裁判所で仮差押命令を得た債権者のために、改めて執行裁判所たる不動産所在地を管轄する区裁判所にその執行の申立をする手間をはぶき、不動産仮差押の執行を簡易迅速ならしめようとするにあつたことは、右立法に至るまでの学説の推移に照らして明らかであり、第三者異議訴訟が仮差押等の執行手続とは別個独立の通常の訴訟手続に属することも明らかである。

しかしながら右立法によつて、不動産仮差押の執行について仮差押命令を発した裁判所が執行裁判所とされたことに伴ない、第三者異議訴訟のうち不動産仮差押執行に対するものを特に右執行裁判所たる発令裁判所の管轄からはずす旨の定めがなされたことはなく、かえつて右立法の結果第七五一条第二項は第五四三条第二項にいう、法律で別段に裁判所を指定した場合に該当するものとなつたのであるから、前記立法の趣旨および第三者異議訴訟手続の性質論からたやすく原決定のように第七五一条第二項の規定を例外規定と見て、不動産仮差押執行に対する第三者異議訴訟の管轄の定めに関係のないものとすることはできない。

これに対して、不動産仮差押執行に対する第三者異議訴訟が、仮差押の登記地を管轄する地方裁判所の専属管轄に属するとする説がある。この説は第七五一条第二項の定めを、右第三者異議訴訟との関係では、第五四三条第二項にいう執行裁判所についての別段の指定にあたらないと解釈することに帰する。しかしながらこの解釈に立つとしてもなお、直ちに右の結論をとるべきかについては疑問がある。すなわち、元来不動産仮差押の執行は、債務名義たる仮差押命令を登記簿に記入する方法によつてなされるものであるところ、第七五一条第二項の追加立法される以前のように同条(現在の第一項)の解釈として、仮差押命令を得た債権者が自ら執行裁判所たる不動産所在地の区裁判所に赴き、仮差押命令の登記簿への記入を登記官に嘱託すべき旨申立てることとされ、仮差押命令の発令裁判所は何等執行に関与しないこととされていた頃はともかくとして、同条第一、二項(第七四八条、第六五一条)によつて発令裁判所自ら執行裁判所として登記の嘱託をなすべきものとされている(したがつて、不動産所在地の裁判所は登記地を管轄していても、自ら仮差押命令を発しない限り、執行裁判所として登記の嘱託をすることはない。)現行法の下においては、発令裁判所のなす右嘱託行為は、すでに仮差押執行の着手として執行手続の一部にあたるものというべきであるから、仮差押命令を発して登記を嘱託した地方裁判所は、その執行手続の完了としての登記のなされた地を管轄していなくても、第五四三条第二項にいう、執行手続をなした土地を管轄する地方裁判所に該当するものと解することができる。現に、不動産と並んで執行裁判所を執行機関としてなされる債権差押の執行に対する関係では、第三者異議訴訟の管轄裁判所を定める規準となる右同条項にいう執行をなしたる地の解釈として、第五九四条、第五九五条による執行処分としての差押命令を発した地(これは該命令を職権で送達する執行手続に着手した地となる)によつて定まり、これが第三債務者等に送達された地(差押執行手続の完了した地)によつて定まるものではないと解されているところである。なお債権の仮差押の執行裁判所については、第七五〇条第二項の定めがあるが、これを第三者異議訴訟の管轄裁判所の定めと関係あるものと見ると否とにかかわらず、右本差押におけると同様の解釈が妥当する。このようにして、第七五一条第二項を第三者異議訴訟の管轄には関係のないものと解して、これを登記の嘱託をする裁判所および執行方法の異議等執行手続に附随して起る問題を処理する裁判所としての限度での執行裁判所の定めをしたにすぎないと考えても、仮差押命令を発し登記を嘱託した地方裁判所は、これを第五四九条第三項、第五四三条第二項にいう執行裁判所と解することができる。これらの点をあわせ考えれば、前記の説の結論にはたやすく従うことができない。なお以上のように解した場合、第三者異議訴訟の提起後に至つて債権者が本執行の債務名義を取得して、強制執行の執行裁判所である不動産所在地の地方裁判所に競売の申立をしたときは、原告のなす請求の趣旨原因の変更に伴ない受訴裁判所において訴訟を右地方裁判所に移送することとなるが、この不便は前記の説の結論に従うための根拠として十分とは考えられない。

以上の次第で、仙台地方裁判所の発した別紙目録記載不動産の仮差押命令の執行に対する本件第三者異議訴訟は、仙台地方裁判所の専属管轄に属するものというべく、本件抗告は理由があるので、抗告人の移送申立を却下した原決定を取消し、本件訴訟を仙台地方裁判所に移送することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 太中茂 松岡登 横畠典夫)

(別紙)目録<省略>

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